『せつなの森』(男 2人 女1人)


【あらすじ】
  その森は既に死んでいた。山神は穢れからその任を降ろされ荒れ狂う鬼か祟り神のようなものと化していた。そこに現れる僧侶「愚道」。神の任を降ろされ魔と堕ちたものを払う愚道に救いを求め、かつて起きた事を話し始める山神。

  なにをもってして悪というのか。鬼とするのか。

【登場人物】
・山神 (女としてますが性別は自由です)
  ある森に棲う山神。慈愛に満ちた存在で、山里の人々に恵を与え、森を豊かに守り続けた。山の麓に祠があり、そこに捨てられていた赤子を拾い育てた。その子を育てるうちに親としての愛に芽生え、その子に刹那と名付けさえして、大切にした。しかし、刹那を山里の人々に殺されると怒りと悲しみに我を失い、里のもの達を殺めてしまう。その時の騒ぎで森は火に燃え、荒れ果てる。
  穢れてしまった山神は神ではなくなり、ただ孤独に刹那を思う日々を過ごしていた。

・愚道 (男 年齢不詳)
  神ではなくなった堕ちて荒ぶるもの達を払う僧侶。全国を行脚している。
  彼が現れる1度目は何かしらの祝い。そして2度目はその者を払うため。そう神々から言われている。

・刹那(男 17歳)
  独眼の少年。産まれて直ぐに山里に住む親が五体満足でないという理由で山神の祠に捨てた。その後山神に拾われ、山で自由に伸び伸びと育ち、明るく逞しい少年となった。
  ある時から里に興味を持つが、山神には流石に言えず山の麓から里をこっそりと見ていた所、1人の娘と出会う。2人は隠れて逢瀬を重ね、その内に恋に堕ち、刹那は里へ下りる決心をする。
  山神から許しを得て里に下りると、その独眼の姿に里にいた本当の両親が自分の捨てたはずの子だと気づき、騒ぎ立てる。「死んだ子に山神が乗り移り里に来た」と。それに恐れた人々はきっと祟をもたらすつもりだと考えそれを止めようと山神退治に出た。刹那は必死にそれを食い止めようとし、山神の目の前で十数本の槍に串刺されて亡くなった。


(SE 夏の夜の森)
(SE 草木を踏む足音)

愚道「…また、随分と荒れ果てたようではないか、山神よ」

山神「ふふ…嗚呼、愚道ではないか……懐かしいのう…もう、いかなるものもこの山に立ち入らぬと思っておったのよ…よもや、貴様が参るようになるとはの…神をも払う、払い屋の坊主…」

(SE 強い風が吹き)

愚道「木々は枯れ果て土地は腐り……何故だ、何故この様な事になった」
山神「元々よ…」

愚道「嘘をつくな…以前に参った際は木々は新緑の葉をつけ、草花は歌い…山神…お前も笑っていた」

山神「愚道…っ、聞いてくれるか…嗚呼、頼む…我が過ちを聞いておくれ」
愚道「話されよ」

(SE 赤ん坊の鳴き声)
山神「人がな、我が祠の前に赤子を捨てたのだ…片目のない、白く、玉のような赤子を…我は戯れにその子を拾い育てたのだ」

山神『人間を山では飼ったことが無いのでな、これは初の試みじゃ…お前、光栄に思うが良いぞ!…嗚呼、愛い子じゃ…おお、笑った!ほんに可愛いのう…ほれ、愛い子じゃ、愛い子じゃ』

山神「刹那…お前はすくすくと育った」

山神『お前は刹那…これは良い名だぞ。人は刹那を生きる…刹那、お前はしかと刹那を生きよ』

山神「あの子が笑って生きていられればそれだけで良かった…我にとっての願いなどその程度じゃった…。
そのうち、刹那は里の娘と恋に落ちたそうな…山を出たいと願ってきた…。あの子が、選んだ事なら止めれようものか……しかし、それが過ちであった」

(SE 群衆の騒ぎ声が遠くから聞こえる)
(SE 木々が火に燃えている)
(SE 刹那の走る足音、祠に着くと止まり)

刹那『山神様!何があっても姿をお現しになってはなりません…私と、これだけはお約束くださいませ…今まで、本当にお世話になりました…刹那はこの御恩、忘れる事はありませぬ。…っ今生の別れにございます、さらば母上』

山神『せつな?』

(SE 走る刹那)
(SE 刀を抜く音)

刹那『荒ぶる里の者共よ!!我こそが、この山に捨てられた独眼の子の体を貰い受けた、邪神そのものだ!日々恵みを与えしこの森に火を付けし大罪、その命をもってしても償えると思うな!』

山神「…刹那を山に置き去りにした親が、里に降りた刹那をみて、死んだ子が山神に乗り移られたと騒いだのだ……森に火を放ち、我の祠へと押し寄せようとする人々の前に立ち塞がり、刹那が叫んだ…」

刹那『あの日、力なくも泣き叫び、苦しむままに置きざられた赤子がこの森に育てられたのだ!そして、誠を知り鬼となった!!我を邪神と罵る者共よ…考えろ、誠の鬼とはどいつかと!!』

(SE 炎が轟々と燃え上がり、次第に遠くなり)

愚道「…刹那はその後、どのように?」

山神「八つ裂きにあった…愚道の立つそこで、10数もの槍に串刺されてな」

愚道「…して、お主は鬼となったか…里の者共を呪い、その血が山に染み込み…故に穢れ、山神の任を降ろされたのだな」

山神「…そなた、我を払いに来たのであろう」
愚道「左様…道理は知れても、荒ぶり治める力を失った貴様はただの鬼…祟り神なのだ、ワシには…もう救えぬ」

山神「…はよう、しておくれ…」
愚道「……次、この地を訪れる時は大量の酒を持ってこよう…お主と、お主の子と、そして戦い勇んだ者達に…せめてもの手向けを」

山神「刹那…せつな、嗚呼…今度は…共に……刹那を生きよう」

(SE 強い風が吹き)

愚道「…誠の鬼、か…子を打ち捨てる親を鬼とするか、禍を平和の為に殺すもの達を鬼とするか…はたまた、子を愛し、その復讐に身を焼かれた親を鬼とするか……分からぬ、儂にはまだ…分からぬ」

(SE 遠のく足音と鈴の音)

声劇台本置き場

私YOKUの描きます声劇(ボイスドラマ)台本置き場になります。 お好みの物語があると良いのですが。 ごゆるりとお楽しみ頂ければ。

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